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SS - マキエの迷い路【中編】

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SS - マキエの迷い路【中編】

――期間限定ダンジョン、巨大迷宮に冒険家たちが挑む。





石壁に囲まれた一本道を歩いていく。
一寸先は闇。行先は暗く、道がどこまで続いているのか、何が現れるかわからない。
ディッツの後ろからは少し遅れてもう一つの足音。
先ほど頭の上から降ってきた少女が、仕方なくといった歩調でついてきているのだ。
少女はディッツとの協力を断ったものの、他に進む道が無ければ同じ道を行くしかない。
ディッツは時たま後ろを振り返って少女の動向を窺っていたが、暗がりでこちらの視界に入るか入らないかの距離を保っているのでその姿を明確に捉えることはできなかった。
視界の隅に表示されているバーが示す迷宮の踏破率は70%といったところ。
しかしこの一本道を歩き始めてこの方、踏破率が一向に進んでいない気がするのは
気のせいだろうか。
ディッツはメニューを開いて時刻を確認する。
かれこれ20分以上歩いているが、踏破率に変化がない。
踏破率が60%になるまでの所要時間はモンスターとの戦闘を含め40分足らずだったはず。
ゴールまでの距離はプレイヤーが迷宮に進入した時設定され、以後変動することはない。
事前に入手したその仕様に照らして考えれば、20分で10%しか進んでいないのはおかしい。
ふと浮かんだ仮説を証明するために荒い石畳の隙間、後続の邪魔にならない位置に
ダガーを一本突き立てて通り過ぎる。
しばらくすると、足元の視界に一本のダガーが映りこんだ。足を止めてダガーを引き抜く。
自分が所有するタイプと同一のものだ。――というより、先ほど自分が置いたものだろう。
やはり、同じ道をぐるぐると回っている。
「はあ~……まじかよ。どうなってんだここ……」
道はまっすぐな一本道。微妙に湾曲し円状になっている風でもないが、
どういう仕掛けか同じ道を何度も通らされていたらしい。
「これがバグじゃなく仕掛けなら、何か脱出するためのギミックがあるはずなんだけどな……」
冒険家の常時発動型(パッシブ)の感知スキル
――この状況では迷宮内の隠された仕掛けに気づく作用がある――は、
“気づく確率を上げる”だけに留まり、無論その精度は100%ではない。
それでも同類のスキルを持たない他職よりは断然有利だったが、
この迷宮は仕掛けが多過ぎて全てを知覚するのは到底不可能だった。
いや、やろうと思えばできる者もいるかもしれないが、そんなことをしていたらゴールに
辿り着く頃には日が暮れている。
何度同じ道を通っても仕掛けに気づくことができなかったということは、
かなり隠蔽度の高いものなのだろう。
スキルを持たない者が迷いこんでいたら匙を投げてログアウトしていたかもしれない。
だがしかし、ディッツは秘境や迷宮を踏破するのを生業とした冒険家に就いている。
この仕掛けを切り抜けられなかったらそれこそ冒険家の名折れだ。
〈シャープセンス〉 のスキルを発動し、目を閉じる。意識的に周囲への感覚を研ぎ澄ます。
これで見つからないようならお手上げだ。バグか運営にはめられたと思って帰る他ない。
「――そこか!」
頭上に感じた微かな違和感を見逃さず、一点目がけてダガーを投擲する。
ダガーは天井にぶら下がっていた一匹の蝙蝠にヒット。
甲高い断末魔と共に蝙蝠は霧散し、視界に続く真っ直ぐだった一本道が曲がり道へと変化した。
「……なるほど、あいつが俺たちを化かしてたってわけか」
曲がり道に差し掛かると視界の踏破率に変化があった。無限の回廊からようやく脱出できたようだ。
「――こっから普通の道みたいだぜ。悪いな、気づくの遅れて!」
ディッツは振り返って背後をついてきているはずの少女に向かって呼びかける。
反応はないが、気配はある。暗がりの中、少女は確かにそこに“いる”。
隠された仕掛けに気づくだけの感知力を持っているのだから、
視界が悪いとはいえ人の気配を感じ取れないわけはないのだ。
だが仕掛け以外のそれに気づくのは、その場にあるだろうとわかっている場合に限られる。
例えば突然、隠し扉でもなんでもない壁が壊れて人が飛び出してきたりしたら、
それはもう冒険家の感知力でどうこうできる問題ではなかった。

「――クッソ、しつけえんだよこの野郎!!」
突如、何者かの手によって岩壁が破壊されたことで繋がったらしい隣道から、
罵声と共に一人のプレイヤーがこちらの通路に駆け込んできた。
予想外の出来事に対応しきれず、ディッツはプレイヤーの突進に似たステップに巻き込まれて
壁にぶつかる。
「何だテメエ!? 邪魔だ、どいてろ!」
刀を手にしたサングラスの男――おそらく侍の職に就いているプレイヤーだ――が、
ディッツを他所へ突き飛ばして壁の向こう側に対して臨戦態勢を取った。
迷宮内で他のプレイヤーと合流できたのだから、出会ったプレイヤーにPT申請をすれば
複数人で同じモンスターを討伐できる。
それがわかっていないのか、それともPT申請の操作の挙動すら許されないほどの強敵を相手にしているのか。
ディッツがぶつけた身体をさすりながら壁の向こう側を見れば、その答えはすぐに判明した。
黒く巨大な体躯を持つグレーターデーモンが一体、
壁に空いた穴を広げながら狭そうに身をよじらせて姿を現した。
ドスンと質量に見合った足音を立ててこちら側へ侵攻してきたその悪魔は、
上級レベル向けダンジョンでは中ボスレベルに位置づけられる強敵だ。
ディッツの顔は引きつり、場の空気が一気に凍り付く。
「――げっ! あんた、こんなのとやり合ってんのかよ!? 侍一人じゃ無理だろ!」
「二体来やがったが一体は倒したとこだ。
 お前、逃げ帰るんじゃなきゃさっさとPT申請送れ。俺は今、目が離せねぇんだよ!」
グレーターデーモンから繰り出された狂爪を侍が刀でしのぎを削っている合間に、体勢を整えて送り付けたディッツのPT申請が受理され、「Oregano」と表記されたプレイヤーがPTメンバーとして加入してくる。
「バフでも何でもかけて、あとは下がってろ!」
「でもあんた、それだけだときつくないか?」
「前に来て出しゃばられる方が迷惑だ! 通路が狭えんだ、得物がぶつかってしょうがねえ!」
早さを重視する侍は往々にして装備の防御力が低くなりがちで、グレーターデーモン級
モンスターの強攻撃なら一発でもまともに喰らえば敗北につながりかねないはず。
こういった強敵を相手にする時は、他にタンク役のプレイヤーを置いて応戦するのが戦いの定石。
それを無視してたった一人で二体相手にし、一体は倒し終えたと言うのだから驚きだ。
間違いなく廃人級のプレイヤースキルを持っている男が、下がっていろと指示するのだから従う他ない。
言われたとおりディッツは冒険家なりに持ちうる能力向上系のバフスキルを侍に使用し、
あとは回復アイテムの使用に専念する。
グレーターデーモンのような体躯の大きいモンスターは攻撃が重い。
武器で攻撃を受けた際にやり方を間違うと、軽いプレイヤーはそのまま地面に向かって
押し切られてしまう。
男はそれを熟知している様子で上手く攻撃を受け流していた。
受け方を一歩間違えば致命傷になりかねない危険な状況のはずだが、食いしばっているはずの男の口元は笑っているように見え、やるかやられるかの瀬戸際でもどこか余裕すら感じさせる。
思うように自分の攻撃が通らないことに煮えを切らした悪魔が、
目を赤く光らせて呪文を高速詠唱し始めた。
グレーターデーモンの使用魔法といえば対象範囲の広い上級魔法だ。
「やべっ、こんな狭い場所でも上級魔法使ってくるのかよ!」
魔法使用の事前行動を目にしたディッツがグレーターデーモンからさらに距離を取るべく後方へ。
直後、通路に大きな氷の柱が複数生えるように出現、
寸でのところで回避したものの危うく餌食になりかけた。
ディッツが冷や汗を流している間に、氷柱を避けた男は隙をついてグレーターデーモンに
肉薄せんと懐に飛び込んでいた。
「――“羅刹狂崩刃”!!」
グレーターデーモンの脇をすり抜け背後に回ってのスキルによる一撃。
無防備な背に放たれた渾身の斬撃が、黒々とした皮膚で覆われた肉を両断した。
通路中に響く咆哮を放った悪魔が自分を傷つけた相手に報復せんと攻撃を繰り出すものの、
すでに侍の機動を捕らえるだけの俊敏さを失った身体では如何ともし難く、
追撃を受け地に伏せるだけだった。

「いやー、すごいなあんた! その調子なら全戦全勝だろ?
 これなら今回はゴールまで行けそうだ」
「甘いな。終盤のエグさを舐めんなよ。俺も十回以上潜って、まだ3回しかクリアできてねえ」
「……まじすか」
戦闘終了後、強いプレイヤーと合流できてラッキー!と口笛を吹きそうになっていたディッツだったが、オレガノと名乗った侍から突き付けられた現実に閉口した。
「何が起きるか、何と遭遇するか見当がつかねえからな。
 ゴールまで辿り着くための確度を上げるには合流した他の奴と片端から組むっきゃねえ。
 ――おい、そこにもう一人いんだろ? いい加減出てこいよ」
オレガノが通路の暗がりに向かって声を上げると、おずおずと少女が姿を現した。
「戦闘に加わってこねえと思ったら、お前らPT組んでねぇのか?」
「あ、えーっと………誘ったんだけど断られてな。
多分悪い子じゃないと思うんだけど、人付き合いが苦手みたいでさ」
オレガノが呆れた声を漏らしたのを聞いて、
なるべく当たり障りないように経緯を説明するディッツ。
その間も無言だった少女に対し、オレガノがメニューを開いてPT申請処理を行う。
「おい、お前。もたついてねえでさっさと加入申請受理しやがれ。
 ゴールまで行きてぇんだろ? 俺たちが連れてってやるって言ってんだ、
 大人しくPT入っとかなきゃ馬鹿だぜ?」
挑発にも似た誘い文句に思うところあったのか、少女は渋々といった様子で申請を受理。
男二人の視界に「れぐにん。」という銃士のプレイヤーがPTインした情報が示された。
「よろしくな、れぐにん!」
ディッツが少女に挨拶するも、返ってくるのは無言。
その風景を一服しながら眺めていたオレガノは、自分は何一つ挨拶するでもなく歩き出した。
れぐにん。はPTの最後尾を、はぐれない程度の距離を保ってついてくる。
「………“俺たちが連れてってやる”?
 あんた、さっき攻略難しいって言ったばかりなのによくあんな大きいこと言えたな」
「冒険家と前衛後衛の三人が揃ってる状況で迷宮攻略できなかったら、
 三人のうちの誰かが死神背負ってるか、プレイヤースキル0の無能としか思えねえよ。
 ………だろ?」
オレガノの最後の問いかけは脇を歩くディッツにではなく、後方の少女に向けたものだった。
――PTメンバーの誰か一人でも働かない無能がいたら、攻略は失敗する。
成功させたければ自分に課された役割をこなせと暗に言っているのだ。
三人のPT一行は、いよいよ最終盤となる迷宮深部へと足を踏み入れようとしていた。


<To be continued.>


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というわけで中編でした。

当初は前後編に分ける予定でしたが、
あまり長い文章をだらだらとこの環境で読むのはどうかと思い、
書いている途中で前中後の3編に分けることにしました。
分けた方が区切りがついて書きやすかったというのも大いにある。

二人にあの侍が合流して、ようやくPTとしての形ができてきました。
作中ではディッツとオレガノは初対面なので、実は地味にこの二人の出会い話でもあります。
次はいよいよ、迷宮の終盤戦ですよ。



▼【グレーターデーモン】ーモンスター
初~中級レベルのエリアではボスモンスター的な扱いを受けることもある強敵。
高レベルエリアでは中ボス的な立ち位置で出現し、プレイヤーの腕を問うてくる。
二足歩行の悪魔種で、頭には二対の山羊の角を生やし、背に蝙蝠に似た翼つ。
2mを越えようかという黒い巨躯は固く短い鱗のような皮膚で覆われ、
部位を選ばねば物理攻撃が通りにくい他、数種の属性魔法に対しても一定の耐性を持つ。

腕力が強く、前衛で応戦するプレイヤーは防御時の態勢にも気を配らなければ
力技で押しのけられてしまうので気を付けたい。
レベルや配置場所にもよるが、何らかの属性の上級魔法を習得していることが多く、
その多くはPT全体を巻き込む危険のある範囲魔法である。
目が赤く光り、高速詠唱を始めたら魔法行使の合図だが、
他の中級レベル以下のモンスターと違い、上級モンスターのグレーターデーモンの詠唱は相当量のダメージを与えなければ中断させることができない。
魔法使用中~使用直後はガードが緩むため、隙をついて物理攻撃を叩きこむ機会となる。


▼【シャープセンス】ースキル/冒険家
全身の感覚を研ぎ澄ませ、周囲に隠された仕掛けや違和感を察知する。
アクロスエンド全職のうち、最も周囲の仕掛けを察知することに長けたスキル。
ただし、スキルレベルが低いうちは隠蔽率の高い仕掛けに気づくことはできないため、
こまめに使用して精度を上げてやる必要がある。


▼【羅刹狂崩刃】ースキル/侍
読みは「ラセツキョウホウジン」。
悪鬼が如き一撃を対象に叩きこむ大技。一刀流専用。
対象の防御値をある程度無視した貫通ダメージを与えることが可能。
高MP消費でクールタイムが長く、スキル使用後の隙が大きくなるため連発はできないが、
防御値の高い敵にも一定のダメージを見込める。


>「お前、逃げ帰るんじゃなきゃさっさとPT申請送れ。俺は今、目が離せねぇんだよ!」
PTを組む際、PT申請を行う側は、メニューを開いてPT申請の項目を選択し
申請対象を指定してPT申請を行わなければならないのに対し、
PT申請を受ける側は、視界に表示されたPT申請を一つ動作で受理すればよいだけである。
そのため、非常に余裕のない戦闘中にPTを組む場合は余裕のある非戦闘者がPT申請の起点となることが多い。

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日々アホなことを考えつつネタ探しに奔走するズボラー(だらしのない人間)。
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