「お疲れ様でした～！」

夕方スプラッシュの生放送収録を終え、
人気男性アイドルグループ【Quad Ace(クアッド・エース)】の大也は
番組スタッフへ軽快な挨拶をして楽屋に戻った。
次はこのスタジオの別室でネット番組の収録がある。それまでは楽屋でしばしの休憩。
手狭な楽屋を見回せば、
先に戻ったメンバー達は手頃な場所に陣取ってそれぞれの休み時間に浸り始めている。
リーダーの剣(つるぎ)は責任感の強い彼らしく、次の収録内容の台本を念入りにチェック。
密葉(みつば)は隅の方で静かに小説を読み始め、
麗愛(レオ)はテーブルに両肘を付いてスマホを弄っている。
さて自分はどうしようかとイスに腰掛けると、
拍子にスラックスのポケットに突っ込んだままになっていた短冊がひらりと舞い落ちた。

――『一人でも沢山の人に 俺のダンスで元気になってもらえますように！　大也』。

そう書かれた短冊を拾い上げ、最近AEで知り合ったある女の子のことを考える。
一緒にイベントをこなすうちにすっかり意気投合して友達登録をしたあの子は、
大也のファンだと言っていた。
ゲーム内で目の前にいる、狸の耳の生えた獣人の姿をした自分が
本物の大也であることなど露とも知らず、笑顔で楽しそうに話していたのを思い出す。
ファンだと言ってくれたことも嬉しかったけれど、それ以上に彼女と話しているとゲームがいつもより楽しくて、ついつい長話をしそうになってしまうのだ。
ゲームはお忍び。自分が大也だと打ち明けることはできないけれど。
このダンスで一人でも沢山の人に、そしてあの子に。
元気になってもらえたらいいと心から思う。

ふと思い立って、買い出しに行っているマネージャーへ電話をかける。
要件は今月末のスケジュールについて。
7月の下旬はAEの流星祭イベントのフィナーレ、星流しが開催される。
もし、運良く星流しの時間に仕事が入っていなかったら、あの子に声をかけてみようかな。
良いアイディアを思い付いたらマネージャーが戻ってくるまで待っていられない。
電話の発信音を耳にしながら、まだ自分のスケジュールもあの子のスケジュールも分からないのに心はもう星流しを二人で見ることでいっぱいで、これはもう何が何でもそうしなければならないと思っている。
ようやく電話に出たマネージャーは呆れ気味に「スケジュールなら専用のアプリに全て登録してありますから、自分でもチェックして下さい」と注意してから、まだ下旬の夜間スケジュールには空きがあることを教えてくれた。

「――空いてる？　ほんと？　やった！！」

隠さず出た本音に、スピーカーの向こう側からため息が聞こえる。
自身の仕事が暇であることに対してその喜び様は何なのか、
という意味のため息なのだが今の大也にはそこまで考えている余裕はない。
今後急ぎの仕事が入ることもありますからね、
とのマネージャーの注意も全く耳に入っていない。
お礼を言って電話を切り、急いでAEと連携してあるSNSアプリを起動。
素早い操作でメッセージを入力していく。

『ひよこ！　下旬の予定って空いてるかな？
　もしよかったら、僕と一緒に――』

「……何だ、大也。彼女か？」

向かい側で目を輝かせてスマホを操作する大也を見ていた麗愛が、
スマホをのぞき込むようにして茶化してくる。

「えっ、……ち、違うよ！？」
「お、図星か。どれどれ、写真見せてみろよ」
「違うって言ってるのに！　写真とか無いから！　あ～っ、俺のスマホ返せ～～！！」
「……何の話してるの？　楽しそうだね？」
「おい、二人ともあまり騒ぐな！　隣の楽屋の迷惑になるだろう」
「みんな聞けよ、大也に女ができたらしくてさぁ」
「ち～が～う～～！」

大也と麗愛のスマホ奪取攻防に密葉が本を置き、剣が台本から顔を上げ、
いつの間にか楽屋は大也のメッセージ送信相手の話題で持ちきりとなり、
大也のメッセージは送信されるまでまだ少しかかりそうな雰囲気なのだった。

＜End.＞

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夕方スプラッシュ・七夕企画収録後の楽屋話でした。

相棒の『二心の七夕』を受けて、
二人とも日常的にお話して仲良くなってそうだな～
と思って星流しお誘いの話を書いてみました。
（豆の心情と絡めてグループの様子を書きたかった話なので、
返信はお気になさらず）

他のキャラでも書きたいものがチラホラあるんだけど、出力詰まってる状態で、
いけそうなものから順次出していくので気長に待っていてほしい……！