――あの少女からのメッセージを受け取った、アインハルトの話。
高校の同級生とパーティを組んでのダンジョン攻略。
戦闘の最中、アインハルトの視界にメッセージの受信通知がポップアップした。
「?」
メッセージの送信相手の名前を見て、思わず手が止まる。
送信者は数カ月前、何かあったら次は自分に声を掛けてくれとアインハルトが伝えたきり、
音沙汰のなかった相手だった。
メッセージを開封して目にした内容にさらに驚く。
「――おい、ちょ、アインハルト!? 前見ろよ、前! 敵!!」
突然、剣を振るう手を止めてしまったアインハルトに対し、
パーティを組んでいたキースから指摘が飛ぶ。
「ごめん、ちょっと俺抜けるよ。悪いけど、後は一人で何とかしてくれ」
「はあ!? このタイミングで抜けるとか何言ってんだよ、ボス戦目と鼻の先だろ!?」
「――うるさいよ、キース。先に街に戻ってる」
二人きりのパーティ。自分が抜ければ、キースは独りになってしまう。
相手を置き去りにするのは事実なので、
多少の良心の呵責からアインハルトは去り際に親指を立てて相手を鼓舞した。
「”健闘を祈る(グッドラック)”、じゃねーよ!
ここ、銃士一人じゃヤバイって……! ああ、クソッ――!!」
薄暗いダンジョンに、一人残されたキースの泣き言が響いた。
――”会いたいです”。
たった一言、そう書かれたメッセージを受け取って、ダンジョン攻略を切り上げて街に戻ってきた。
単独での攻略が難しい場面に直面しても一人で頑張ってしまう子のようだったから、少し心に引っかかっていた。
最後に会った時、困難な相手なら次は手伝うよ、と声を掛けたつもりだったけれど。
長い間連絡がなかったし、偶然会うこともなかった。
そんな相手からの突然のメッセージだ。きっと何かあるに違いない。
今しがたパーティを組んでいた同級生のキースとは”全く気兼ねのない”仲だ。
たとえ攻略途中でパーティを抜けても今後の二人の関係が今以上に悪化する心配はない。となれば、優先すべきはこちらの要請だ。
会いに行くべく相手の位置情報を確認しようとフレンドリストに手を伸ばしかけたところに、再びメッセージの受信通知がポップアップした。
送信者は先ほどと同じ、魔剣士の少女・ガーネットからのものだった。
――"突然変なことを送ってしまい申し訳ありません。"
――"ご迷惑お掛けしますが、メッセージの破棄をお願いします。"
読んで、一通目のメッセージを打消す内容に面食らう。
ただの送信ミスだったのか? それとも彼女の中で何か迷いがあるのだろうか?
凍えながら3時間も攻略困難な場所で奮闘する。小柄な外見からは想像もつかないような、一人で無理をする少女だ。加えて確か、礼儀正しい要素も兼ね備えていたはず。
助けが必要な状況下で咄嗟に送信したものの、こちらに迷惑がかかると思い直して断ったというパターンも考えられる。
ぼろぼろになりながら一人で頑張っているのであれば、今度こそ力になってあげたい。
……であれば、ガーネットに直接会いに行ったほうがいいだろう。
久方ぶりに懐かしい相手からメッセージが送られてきたのだから、ダンジョンに放ってきたキースの元へ戻るのは彼女が置かれている状況を実際に目にしてからでも遅くない。
間違いだったなら引き上げるだけ。もしそうでなかったのなら、”会いたい”と送信した理由を彼女に聞いてみよう。
アインハルトはガーネットの位置情報を確認し、飛竜の巣に進路を取った。
岩肌の見える殺風景な岳。
獣道に近い山道には一抱え以上もある岩が無造作に転がっている。
飛竜の巣を一人進みながら、そういえばガーネットと最初に会ったのもこの場所だったと思い出す。
――「突然ですが、私とパーティを組んで頂けないでしょうか」。
ガーネットから掛けられた初めの一言が、不意に脳裏に蘇る。
クエストを手伝ってくれる相手を探していて、ずっと見ていた、というようなことを言われたっけ。
かなり月日が経ってしまっているにもかかわらず意外と記憶は鮮明に残っていて、道中でマニュアル操作を試してみようとした彼女を止めたことも思い出した。
何気ない些細なやり取りを振り返るうちに、少女と冒険していた時の感覚が戻ってくる。
――彼女のいろんな表情を、もっと見てみたい。
いつの日だったか、そんなささやかな期待を抱いたことがあった。
箱の底に埋もれてしまっていた小さな宝石のように光輝くそれを、
彼女の姿を探す道すがら、大切に取り上げて向き合う。
これまではずっと、ただフレンドリストでその名前を確認するだけの存在で、
相手からの要請を待っているばかりだったけれど。
今回のことを切欠にしてもっと自分から近づくことができれば、何かが変わるだろうか?
山の中腹。岩場に腰掛け一息ついている風のガーネットの姿を見つけた。
ぽつんと一人。周囲にパーティメンバーらしき影はない。
「――久しぶり、ガーネット」
名前を呼ばれて少女が顔を上げた。
「会いに来たよ」
見上げる赤い瞳に、そう言って笑いかける。
送られてきたメッセージの理由を尋ねるべく、小さな期待を胸にアインハルトは次の言葉を続けた。
<End.>
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相棒宅のSS「ほんとうのきもち」を受けて、
ガーネットからメッセージを受け取ったアインハルト側の話を書きました。
尻切れトンボな感じですいません。
これ以上続けようとするとまた、とんでもなく長い間日にちを置かなくてはいけなくなってしまいそうだったので、区切りのいい所で〆させてもらいました。
アインハルトの、最後の台詞を書きたいがための話でした。
そんないつまでも遠慮してメッセージ送信画面で手を止めなくていいんだぜ?
頼ってくれていいんだぜ?
ガーネットに伝われ、筆者の気持ち――!!(お前のかよ)
……真面目な話、アインハルトの中ではガーネットが他人に手伝いを要求するのが苦手なために一人で頑張ってしまっている子という印象があるので、この後のやりとりによっては、「メッセージを送信して誰かを誘うのが苦手なら、定期的に一緒に冒険するような機会を設ければ解決じゃない?都合のいい時間帯があれば俺合わせるよ?」って話を提案しそうな気がします。
アインハルト側としてもずっと気にかかったままだともやもやするので、ここはひとつ特別枠を設けて、手伝うならとことん手伝おう!と。
最近はキースの手伝いばかりさせられていて、正直、「たまにはキース以外の奴と組みたい」「キースの付き合いを断る正当な理由が欲しい」とも思っているので、時期的には渡りに船だったり。。。
キースに対する態度がぞんざいなのは、キースが同級生かつ身バレしており、
相手に対して全く遠慮がないからです。
(キースとのセカンドコンタクトが悪かったせいで、
むしろわざとぞんざいな態度を取っている感じ。)
(他人のスマホを勝手にのぞき見する奴(=綺未)に、
必要以上に丁寧に接する必要はないと思った結果がアレです。)
キースと二人きりの時はあんな態度ですが、
他のプレイヤーがいる時には普段どおりの”アインハルト”になります。
好印象を抱いているガーネットといる時は尚更、
キースに向けているぞんざいな態度は隠し通すと思われます。
タイトルの日本語訳は、 「尋ねよ、さらば見出さん」。
新訳聖書『マタイによる福音書』より、「求めよ、さらば与えられん」に続く言葉です。
(尋ねよ~の後に、もうワンフレーズ控えてます。)