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あっち向いてホイ

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SS - Ask, and it will be given to you

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『新緑Liar』の有人視点の話。



上田有人の身体には痛みを知覚する機能に生まれながらにして不備があり、
熱さと冷たさも感じられずに育った。
幼い頃は転んで泣く友人の涙の理由がわからず、
周囲の関心を惹きたいがためにそうしているのだろうかと疑問に感じたものだ。
そうやって泣く友人の隣で黙って立つ我が子に、
母は何故泣いているのかの理由を幼子でもわかるような言葉にして聞かせた。

その母が最期にこう言った。

――“人の痛みがわかる人間になりなさい”。

どうして自分にわからないものにまで気を配らなければならないのか。
その時はよくわからなくとも、有人は亡くなった母が遺した言葉のとおりに生きようと思った。


* * *


20世紀の有名な歌が繰り返し口ずさむように、有人は想像する。
もし自分が周囲の人と同じように、
人間が持って生まれてくるべき全ての機能を備えていたならば。
天気予報と温度計を確認しなくても、
外に出ればその日の気温を自分の身体で感じ取ることができたならば。
小さな怪我を負った時、他人から指摘されなくても傷の痛みを知ることができたならば。
そうやって想像することでしか他人と肩を並べることができないから、自分にないものは想像で補った。
補おうと、努力をしてきたつもりだった。
でも「学校」という狭い檻に似た社会では、上手く生き延びる為にはもっと様々な場所にも想像力を働かせなくちゃならない。
同じ感覚を共有し、同じ流行に乗らなければ生き難いこの社会では想像力の欠如は社会的な死を招く。
自分は普通と違うという事実を周囲の人間に気づかれないようにしながら、
繊細な人間関係にまで気を配るのは想像以上に困難を伴うものだった。
小学校で手痛い失敗をして中学校で装うことに必死になり、高校では疲れてとうとう人間関係の構築自体を厭うようになってしまった。

学校生活での努力を放り投げた分、夢中になっている仮想現実のゲームの中ではそれなりに他人のこともあれこれ考える余裕が生まれ、有人は「アインハルト」という名のプレイヤーとしてそれなりに上手くやっているつもりでいた。
馴れ馴れしい奴だと思われない、それでいてただの便利な奴だと軽んじられることもない距離で、誰かが声をかけてきてくれたら応えて相手が一緒にゲームをプレイできて楽しいと思ってもらえていたらいいなというのが行動方針の基本だ。
だから、アクロスエンドでフレンドリストの一覧に“彼女”の名前がオンライン状態で表示されているのを見ても、相手からメッセージがくるのをただ待っていた。
今どこでレベル上げをしているのか、何か困っていることはないのか。
日に何度もフレンドリストでその名前を気にしていることを自覚してはいたけれど、まだ2回PTを組んだだけの女の子に何と声をかけたらいいのか思いつかず、気づけば毎回、メッセージの送信画面を立ち上げただけで手が止まる。
自分にお呼びがかからないということはきっと他に手伝いしてくれる当てがあるか、助力なしでも上手くやれているということなのだろう。
「何か手伝うことある?」なんてメッセージを送っても、相手を困らせるだけなんじゃないか?
何も書かずに送信画面を閉じる時、頭の中ではいつもそんな想像をして、これでいいんだと言い聞かせていた。
でも結局それはただの想像でしかなくて、目の前で一人寒さに震えている彼女が現実だった。

高レベル帯のダンジョン『嘆きの塔』で、凍り付いた岩場に座りこんだ小柄な姿。
待つだけの存在だった彼女の姿を意外な場所で、予想外の形で目にして、狩りの終わった仲間が次々にダンジョンを引き上げていく中、視線はその姿に釘付けになってしまう。
「えっと、ガーネット……」
以前会った時の彼女のレベルでは攻略の困難な場所(ダンジョン)に、寒さに身を震わせながらどうして一人でいるのだろう?
他に手伝ってくれる相手がいるから、自分に声がかからなかったのではなかったのか。
「こんな所でどうしたの、かな」
自分が今どんな顔をしているのかよくわからないまま、そう声をかけていた。
聞けば、スキル習得のために挑んだものの単独では思うようにいかず途方に暮れていたらしい。
凍傷の状態異常と寒さで氷漬け間近だった少女を塔から連れ出し、ブレークポイントの名物「エナジースープ」を勧める。
スープで身体を温めながらのやりとりで兄の話に触れたら、ガーネットは急に考えこみ独り言を呟き始めた。
アインハルトには測りかねる思考の流れだったが、これまで知らなかった彼女の一面をまた一つ垣間見れたのだとすればそれはそれで面白いもののように思えてくるので不思議だ。
程なくしてこちらの世界へ戻ってきたガーネットは驚いた拍子にスープをこぼし、ひとしきり焦った後、今度は気落ちした様子で無言になってしまう。
「ガーネット、どこか調子悪いの?」
いつになく感情が読めない少女の七変化をダンジョンでの疲れではないのかと心配してみれば、塔で3時間も粘っていたという事実が判明した。
「――声掛けてくれれば良かったのに」
ちょうど近くにいたんだし、と続ける心中で複雑な感情が渦巻く。
でも表情は笑顔だ。それ以外作るあてがない。
自分はそんなに頼りがいがなく見えるのだろうか? 声を掛けにくそうな立ち振る舞いをしてしまっていただろうか?
今日もログイン中は度々フレンドリストをチェックしてその名前を見ていたのに、自分にできたのは疲弊した彼女を見かけただけ。
もっと早く見つけられていれば……いや、やはり自分からちゃんと言葉にするべきだったのだ。
だから今回はガーネットを前にしてはっきりと口に出す。

――次は自分に声を掛けて、と。




<End.>


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\ヘイヘイヘーーーーイ/
相棒作の『新緑Liar』を有人視点から見たお話だよ!
着手したのは約一年前だよ! UPまで随分と時間がかかったね!!


――この度は、書く書くと言っておきながら
書き上げるのが大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。(土下座)


当初は熱いスープを平気な顔で飲み干してしまって内心焦るシーンとかあったんですが、
間が悪かったのでスッパリカットしました。
ガーネットの前で常人とは違う反応をしてしまって焦るというネタは違う話でやりたいです。

「いつもこんな遅くまでいないでしょ」(新緑Liarより)
って言えるってことは、相手がどの時間までログインしてるのか把握できるくらい
頻繁に相手のことをチェックしてるってことですよね。(ゲス顔/やめなさい)

それだけ気にかけている相手が孤軍奮闘して弱ってるのを見かけて、
「声掛けてくれれば良かったのに」
のところで内心、どうして頼ってくれなかったんだ!ってショック受けてればいいなと思って書きました。
前半のくだりは有人がどういう思考をしているのかがわかるように
補足情報として書いたので、あまり後半の流れには関係なかったかな……。

頼られないことがどうしてそんなにショックなのか。
どうしてそんなに自分に声を掛けてほしいのか。
その理由はまだよくわかってないけど、そうして欲しかった!ということに気づけたので一歩前進しています。

現代草食系男子らしく奥手で、
相手が目の前にいないと自分からはなかなか積極的に声をかけられなかったんですが、
この出来事以降はちょっとだけ変わってくるんじゃないかと思います。

このままゆっくりでもガーネットと歩いていければいいな~。
のろのろ……。


タイトルの日本語訳は、「求めよ、さらば与えられん」。
”20世紀の有名な歌” っていうのはジョンレノンの Imagine のことです。

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日々アホなことを考えつつネタ探しに奔走するズボラー(だらしのない人間)。
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