― アオイ、サンタ見習いになる ―
目を開くと、そこは美しい銀世界――。
就寝前は暖かい陽気の漂う草原にいたはずなのに、アオイが目覚めたのは雪原のただ中だった。
遠くにちらほらと雪を被った杉林の緑が見える以外は地上のすべてが白に覆われている。
しんしんと降る雪がアオイの身体にも積もり、半ば積雪に埋もれかけていた。
慌てて身を起こし、積雪を振り払う。
と、そこでようやく自分が見慣れない服を着ていることに気づき首を傾げる。
いつもの服で寝たはずだったのに、いつのまにか防寒用のコートのようなものを着ていた。
赤を基調とした服は所々に白いボアが施され、ふわふわとしていて暖かい。
それに加えて手には赤い手袋、靴は膝下まである寒冷地用のブーツを履いている。
「はっ……くしゅん!」
耐寒用の格好をしていても、そのまま雪原で寝ていたのでは身体が冷えて当然。
アオイは一つ、大きなくしゃみをした。
鼻水の出てきそうになった鼻をすすって顔を上げると、先ほどまでは雪しかなかった場所に人影が立っていた。
アオイと似て赤を基調とした服を着用し赤い帽子をかぶり、豊かな白い口髭を蓄えた男はアオイに向かってにっこりと笑いかけた。
「やあやあ、ようやくお目覚めのようじゃのう。
こんなところで寝ていては風邪をひいてしまうぞ?」
片目が閉じたままの男の顔を見て、アオイは身体を強張らせた。
寝ている間にアオイを雪原に移動させ、服を着替えさせたのはこの男が犯人に違いなかった。
一歩、二歩、後方に後ずさりして距離を取ってから、恐る恐る「何の用か?」と尋ねると、
男は自らの背後から白い袋を取り出してアオイの前に差し出した。
「世間ではクリスマスが近い。サンタの儂は連日関係各所にひっぱりだこで大忙し。
まさしく猫の手も借りたい状態でな。
お主は今日からしばしの間、サンタ見習いとして働いてほしい。
――ほれ、これがお主用のプレゼント袋じゃ。受け取るがよい」
アオイにアクロスエンドで死者の魂を集めろと言った男――ハーヴェストと名乗る死神――が、
今度はサンタクロースの格好をした上に滑稽なサンタの芝居までしてゲーム中のプレイヤーへプレゼントを配れと命じてきた。
ハーヴェストはこのシチュエーションの為だけに、寝ている少女をわざわざ雪原に放り込んだのだろう。
そして、心地よい眠りについた少女が寒さと周囲の異変に気付いて目を覚ますまで待った。
常人ならば神経を疑う行動。
一体何が死神をこのような奇行に走らせたのかは全くもって不明だ。
考えあってのことかもしれないし、ただの気まぐれかもしれないし、迷惑をかけたいだけの愉快犯という可能性もある。
「い、いらないです」
「そうかそうか、快く受け取ってくれるか!
ふぉっふぉっふぉっ、これは働きぶりが楽しみじゃわい!」
不要だと言ったはずなのに身体が勝手に動いて、アオイは自分から袋を受け取ってしまっていた。
どうやら断る選択肢は最初から用意されていないらしい。
抵抗は無駄であると悟り現状を受け入れたアオイに、死神のサンタはサンタ見習いとしての活動方針を説いた。
曰く、サンタ見習いはあくまでサンタの“見習い”であるから、誰彼問わずプレゼントを振り撒くにはまだ早い。見習いのうちは日頃自分と関係のあった者達へプレゼントを配り、サンタとしての練習をするのだ、と。
「まずはサンタらしく、相棒となるトナカイを調達せよ。プレゼントを配るのはそれからじゃ」
「え……トナカイは自家調達なんですか」
「見習いの腕の見せ所じゃな! では、さらば!」
ふぉっふぉっふぉっという笑い声を上げ、死神サンタは登場時と同様に忽然と姿を消した。
静かな雪原に死神の足跡とサンタ見習いとなったアオイだけが取り残された。
<To be continued?>
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アオイ、サンタ見習い始めました。
11月に思いついたサンタネタを投下。
まだアオイ編の導入すら公開していないのに、
アオイを主役にしたパラレル的な季節ネタを投下するという暴挙。
ちゃんとしたアオイの導入話は年末年始休暇に書ければいいなと思っておりますので、
今回は冬の一大イベントの雰囲気だけ楽しむ方向でお願いします……。
時系列的には、アオイがAEで四半期ほど過ごし、
他のプレイヤー達と交流を育み交友関係が広がってきたあたりの設定で書いています。
サンタらしくプレゼントを配る話が続く予定なんですが、
ちょっと色々忙しくてクリスマス当日までに書き上げるのは無理だったので、
旬が過ぎないうちに冒頭部分だけUPしておこうという滑り込みスタイル。
AEで開催されてるクリスマスイベも楽しみたいし、
1月中も一人でクリスマスしてると思います。
故に正月ネタはない。(宣言)