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あっち向いてホイ

創作や企画の呟き、落書き、アイディアなどが放り込まれるブログ

SS - 笑顔

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SS - 笑顔

――アインハルトとガーネット。
アクロスエンドで出会った二人の、二回目の冒険の話。




高レベルプレイヤー向けインスタントダンジョンの入り口に喚き声が響く。
ボス攻略に失敗しスタート地点に戻された攻略PTのリーダー格があれこれ失敗の原因を指摘するが、愚痴が大半で次の攻略には役立ちそうにない。
同じ攻略系ギルドのメンバーによって構成されたPTにただ一人部外者として名を連ねていたアインハルトは、苦笑いを浮かべ心の中で深いため息をついた。
アインハルトが知り合いに頼まれて加わったダンジョン攻略PT。
知り合いといっても何度か攻略PTの募集で一緒になった程度の付き合いで、別段親しい間柄というわけではなかった。
自分のレベルでは加わっても攻略に苦戦するのは予想がついたが、“盾役”がどうしても欲しいと言われ、攻略成功の暁にはボスのドロップ品を優先的に受け取るという約束で引き受けたのだ。
見ず知らずのPTメンバー達は始めこそ協力してくれたアインハルトに対する配慮があったものの、攻略が行き詰まってくると次第に雰囲気が悪くなってくる。
取り立ててPTリーダーを務める魔導士の男は歯に衣着せぬ物言いで他人に厳しく、彼をよく知らない人間にとってはなかなかに居ずらいものがあった。
分け前を与えてもらえるのだから割り振られた役割をこなして当然といった態度では、協力するのも苦痛になるというもの。
彼らはアインハルトが摩擦を避けようと浮かべている笑顔の裏で、その心が凍り付いていっているのを知らない。
とはいえ、不満があってもそれを顔に出さずに笑っているのがアインハルトというプレイヤーなので、察しの良い者でなければ気づけるものではなかったが。
三度の失敗で疲労の溜まった精神に鞭打っての行軍に心底嫌気がさしてきた頃。
アインハルトの視界の端に他のプレイヤーからのメモによるメッセージを受信したことを知らせるポップが点灯した。
気付いたアインハルトが送られてきたメモを視線操作で開いて覗き見る。
メモの内容は、クエ品収集の助力を請うもの。
送信主の欄に見慣れない名前。誰だったかと少し考え思い出す。
先日、飛竜の巣近辺でアイテム収集を手伝ったプレイヤーだった。
――『わかった、手伝う』。
短くそれだけを入力して返信した。
この要請を口実に、辛い攻略PTからおさらばしようという考えだった。
「……俺、これから約束があるので抜けますね。すいません」
これから四度目の攻略に挑もうかという頃合いで別れの言葉を切り出したアインハルトへ、一斉に非難の視線が向けられる。
必要とされる人数が揃っていても攻略に窮する状態で一人欠ければどうなるか。初心者でも容易に想像がつく。
しかし、ゲームをプレイするプレイヤー達には各々の都合というものがあり、目的達成半ばで誰かがPTを抜けることなど日常茶飯事だ。
リーダーは不満を一切隠さない表情と態度で、途中までとはいえ文句も言わず従った協力者へ礼の一つも言わなかった。
不特定多数のプレイヤーが集まるゲームではこういうこともよくあることだ。罵り合いにならないだけまだマシな方。
アインハルトは丁寧に謝罪をしてからPTを脱退し、自分にとって全く用のないダンジョンからさっさと離脱した。


アクロスエンドのエリアマップで最も大きな大陸、グランドセンチュリア。
その一角に存在するモーブ坑道の入り口で、目的の人影を見つけたアインハルトが声を上げた。
「――ガーネット、お待たせ!」
ガーネットと呼ばれた少女は、待ち人を視界に捉えると体育座りを崩して、すっくと立ちあがった。
拍子にミドルショートの桃色の髪がなびき、後ろに下がった三つ編みも一緒に揺れる。
アインハルトは先のダンジョン攻略で減った回復アイテムの補充など最低限の準備を整えてから駆けつけたが、場所が離れていたために到着に時間がかかってしまい、彼女からメッセージを受け取ってから少なくない時間が経過していた。
「ごめんね、ちょっと離れた場所にいたから、来るのに時間かかっちゃったんだ」
「いいえ、呼び出したのは私の方ですから。わざわざ遠方まで駆けつけて下さってありがとうございます」
ガーネットは“少女”と形容するに相応しい外見の若さとは裏腹に丁寧すぎるほどの口調で、さらには優雅にお辞儀までした。
アインハルトにとって彼女は、数日前にクエスト用のアイテム集めを手伝った際にフレンド登録をしたばかりのプレイヤーだった。
魔剣士の職に就く、小柄な少女。
彼女は初めて会った時と変わらず、礼儀正しい態度を崩さない。
最初のうちは助力を得る側として必要以上にかしこまっているのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
「今日もクエ品集めってことでいいんだよね?」
「はい。送信したメモに書かせていただいたとおりです」
メモの内容は頭に入っている。要はお目当てのアイテムを落とすモンスターを狩ればいいだけの話。
今回倒さなくてはならないモンスターはこのモーブ坑道のボスだ。
高難易度のダンジョンに何度も付き合ったせいで疲労は溜まっていたが、難易度の低いダンジョンなら問題ないだろうと判断して引き受けた。
正直なところ、ダンジョン攻略で他人の手伝いをした後にまた同じような手伝いをしなければならないことに迷いを覚え、先の状況では要請を受けるかどうか数秒逡巡した。
アインハルトはゲーム内で誰彼構わず困っているプレイヤーに手を差し伸べるような気質ではなかったし、さほどボランティア精神旺盛でもない普通の少年だった。
頼られると断りにくいのは確かだったが、羽を伸ばして遊ぶためにある環境でわざわざ進んでストレスを溜める選択肢を選ぶ必要はない。
ここは仮想空間のオンラインゲームの中。現実のしがらみを忘れて自由になれる場所。やりたくないことはやらなくてもいいのだ。
手伝いなんて全て断って自分のやりたいことだけしても、誰もアインハルトを責める権利など持っていやしない。
しかし、彼女からの要請を攻略PTから抜けるための口実に使う手前、断るのに罪悪感があったのも確かで、結果的にはこうして駆けつけることとなった。
そんな事情を露も知らないガーネットは、待ちわびたような瞳でアインハルトの顔を見上げてくるので、アインハルトは疲れを悟られないように努めて笑顔で応えた。
「じゃあ、時間も勿体ないし、早速PT組んで坑道に入ろうか」
「はい、よろしくお願いいたします」
PTを組むための一通りの操作は淀みなく終わり、二人は坑道内へ足を踏み入れた。
モーブの坑道は紫色の水晶、アメジストが多く含まれた地質を持ち、採掘でも紫水晶がよく入手できる場所だ。
薄暗い坑道内には一定間隔ごとに暗闇で光を放つ夜光石の明かりが設けられ、その明かりを頼りに道を進んでいくことになる。
むき出しになった岩肌のあちこちに紫水晶の破片が輝く様は幻想的だが、先の見えない暗がりにモンスターが潜んでいるのを考えると見とれてばかりはいられない。
時折どこか遠くで水滴の落ちる音と蝙蝠などの生き物が活動している音をかすかに耳にするだけの静寂の中を、アインハルトが先行し、その後ろをガーネットがついて行く。
「この坑道に来たことはある?」
「いいえ、今日が初めてです。……メモを送る前に一人で挑んでみましたが、途中で断念しました」
「確かに、そのレベルだと奥まで行くのは辛いよね」
言おうか言うまいか逡巡したような間があって、ガーネットは単独挑戦の結果を打ち明けてくれた。
少女のレベルを確認したアインハルトも、それもそのはずだと相槌を打つ。
モーブ坑道は中級者向けエリアの中でもスタンダードなインスタントダンジョンだ。
奥に進めば進むほど出現する敵が強くなり、最終的には最奥に潜むボスに戦いを挑むことができる。
進入時の人数によってダンジョン内でエンカウントするモンスターのHPと数に調整が入るため、比較的プレイヤー単独でも挑みやすい。
ガーネットのレベルなら序盤なら問題なく、奥でも一、二体のモンスター相手なら勝利を掴めるだろう。
だが、ボスに勝つのは難しい。なにせこの坑道の主は、回避不能の攻撃をしかけてくる。
相手からの攻撃に耐えるだけの防御力と体力が足りず、途中で攻撃がままならなくなるはずだ。
アインハルトのメイン職(ジョブ)である騎士は、大きな盾装備による防御力と恵まれた体力で敵の攻撃から仲間を守ることに長けており、モーブ坑道のボスに挑むなら最適の協力者といえた。
奥に進むうち、アインハルトの脳裏に何度もモーブ坑道のボスに挑んだ経験がよみがえってくる。
「ここのボスなら、俺を選んだのは正解だね。騎士のスキル強化でボスを倒さなくちゃいけないから、昔何度も来たよ。わかってて騎士の俺を呼んでくれたのかな?」
「そうだったのですか。その情報は今、初めて知りました」
「あ、ただの偶然か」
「そのようです」
何気ないやりとりを交わしながらアインハルトがたまに後ろを振り返ると、ガーネットは薄暗がりの中でも怯える様子なく付いてきていた。
薄闇の中でも輝きを失わない宝石のような赤い瞳が、静かに行く先を見つめている。
坑道内では周囲に光が少ないせいか、無言でいると少女の内にある大人びた雰囲気がより一層際立って見えた。
ガーネットのまとう空気は、アインハルトの知るゲーム内のプレイヤーにもクラスメイトにもいないタイプのものだった。
礼儀正しく丁寧なところは好感が持てるけれど、それが他人行儀さを覚えてしまうような。
フレンドリストに名前があるとはいえ、今日を含めてまだ二度しか顔を合わせていないので紛れもなく他人なのだが、何か上手く言葉にできない隔たりのようなものを感じていた。
アクロスエンドでは現実の姿形とは全く無縁の外見でゲームをプレイすることができるため、アバターの外見とプレイヤーの実年齢が乖離していることがよくある。
アインハルトの場合、相手のアバターから実年齢を推測して口調を変えるのは気疲れしてしまうので、ざっくりと相手の雰囲気に合わせて会話していた。
初めてガーネットと接する時も、自分よりも年下に見える外見から判断して同年代と接するのと同じようにくだけた口調で話すことにしたのだが、今更ながらその選択は正しかったのだろうかと疑問に思い始めていた。
様子を窺うに、彼女は自分の予想を上回る年長者なのかもしれない、と。
かしこまった態度を崩さないのも、年上であることを認識させるためなのでは。お上品な振舞いで表情の起伏があまりないのも、これまでに何か彼女の気に障ったことをしてしまって内心怒っているとか……。
馴染みのない連中とPTを組んだ後で相手の動向に対してアンテナが高くなってしまっているせいか、周囲が暗く代わり映えのしない景色が続いているせいか、掘り返しても仕方のないようなことが次々に頭を回り始める。
余計な考えに思考を割くほどの余裕ができるくらい気を張らなくても倒せてしまうレベルのモンスターしか出現しないので尚更だった。
しかし、やがて不毛な思議にも終わりの時が来た。
これまで延々と続いてきた道が、岩石の山でふいに行き止まりになる。
坑道の最奥、ボスが根城にしている紫石の間のちょうど手前に到着したのだ。
アインハルトは回復アイテムの残数と装備を確認し、ボス戦用に思考を切り替える。
「――この先がボスのいる場所だね。入ったら引き返せなくなるけど、準備は大丈夫?」
後ろを振り向くと、ガーネットがいつになく緊張した面持ちで頷いた。
「それじゃあ、いくよ……!」
道を塞いでいた岩石の合間、岩の積み重なりが薄く向こう側からの光が漏れている場所を剣で一気に突き崩すと、きれいに人が通れるだけの隙間が空く。
二人はその先に鋭い眼光を見た。
紫水晶の巨大結晶が生える空間にモーブ坑道のボス、アメジストライノセラスの巨体が横たわっていた。
姿は巨大なサイに似ており、鼻の上に立派な角を生やし岩のようなゴツゴツとした分厚い皮膚を持つ。
背から尾にかけては大きな紫水晶が並び立ち、その様はステゴサウルスを代表とする剣竜を彷彿とさせる。
紫石の間に進入したプレイヤーに与えられる行動範囲は限られている。
ボスの巨体が暴れまわれば被弾を覚悟しなければならない程度の広さしかない。
アインハルトは、隣でボスを目の当たりにしたガーネットの身体が強張るのがわかった。
「なかなか迫力がありますね……!」
「こいつの攻撃はもっと迫力あるよ、覚悟してね。
戦闘が始まると逃げ場ないけど、俺の後ろに隠れてれば大丈夫だから。
アメジストライノセラスは物理攻撃が通りにくい分、属性攻撃が効くんだ。
俺は盾役に専念するから、キミは魔剣士のスキルでHPを削って」
「わかりました」
立ち回りを確認するとすぐ、侵入者を発見したアメジストライノセラスが怒号を上げ地面を踏み鳴らした。
低い唸り声と地響きが坑道内を揺らし、プレイヤーの侵入経路は崩れ落ちてきた土砂で塞がれてしまう。
坑道内の岩石に含まれる紫水晶を主食とし、普段は食べるか寝るかで大人しいらしいが、自分のテリトリーに侵入者を発見すると排除しようと猛攻を仕掛けてくる。
アメジストライノセラスの巨体が、そう広くもない空間から侵入者の居場所を奪い取らんとして突っ込んできた。
突進の直撃を避けても、立て続けに空間いっぱいが対象となる尾による範囲攻撃を繰り出してくるので避きるための逃げ場は存在しない。
下手すれば岩壁と巨体に挟まれて身動きの取れないまま持続ダメージを食らう羽目になるため、 アインハルトは周囲のスペースを確保するよう気を付けつつ、盾を構えて突進を受け流す。
受け流す、といっても相手の質量が大きすぎるために闘牛士のように華麗にはいかず、盾を支える腕に遠慮のない衝撃が響いてくる。
その盾の背後に身を隠していたガーネットから小さな悲鳴が上がった。
大して広くもない空間で岩のような巨体が対象を押しつぶそうと――もしくは角で刺し貫こうとして、自分めがけて迫ってくるのだ。誰でも初見は悲鳴の一つ漏らして当然。
続いて繰り出された太い尾による渾身の連続打撃攻撃で、空間全体が地震に見舞われたかのごとく揺れる。
何度も盾を襲う衝撃を、アインハルトは盾の下端を地面に接地させ両足を踏ん張ることで耐え抜く。
騎士の防御上昇系スキルのお蔭で受けるダメージこそ少ないが、両手を使って攻撃を凌ぐため剣を振るう暇はない。
アメジストライノセラスの連続攻撃の最中は大抵のプレイヤーは受けるダメージを抑えるためというよりも、本能的に感じる命の危険から身を守ろうとして防戦一方にならざるをえない仕様だ。
その迫力ゆえに、プレイヤーに攻撃のチャンスが巡ってきても防御態勢のまま固まってしまう者もいるほど。
アメジストライノセラスの猛攻がひと段落した隙に、アインハルトは背後の様子を窺った。
もしガーネットが萎縮してしまい戦えないようなら、自分一人で何とかしようと考えていたのだ。
盾を構えて彼女を庇いつつ、敵の接近時を狙って攻撃スキルを叩きこめば、長期戦になるだろうが倒せなくもない――と。
だが、アインハルトの考えは杞憂に終わった。
「……負けませんわ!」
敵が息を整えるべく下がった一瞬の隙を見逃さない。
盾の後ろから飛び出したガーネットが、自身の放つ攻撃スキルの射程まで駆けていく。
その勇ましい様を見たアインハルトの口元にはいつの間にか笑みが浮かんでいた。


「これで、終わりです――!」
敵に僅かに残ったHPを削らんと繰り出されたガーネットの一撃がアメジストライノセラスの脇腹に命中(ヒット)。
蓄積されたダメージで回避も防御もできなくなっていた巨体がぐらりと傾ぎ、地面に倒れ込んだ。
背に生えていた紫水晶の列がパキパキと音を立てて砕け、粒子となった水晶片が空間に舞う。
敵の攻撃に耐えてはスキル攻撃を叩きこむのを何度も繰り返した二人の耳にボス戦勝利のファンファーレが鳴り響いた。
「……本当に、やったのですか?」
ガーネットは激しい戦闘が終わったことが信じられないといったような顔で、まだ敵が起き上がってくるのではないかと警戒した様子で言う。
「うん、キミが倒したんだよ。討伐成功、おめでとう!」
視界に表示されている敵のHPゲージが0になっているにもかからわず剣を手に握りしめたままになっていたガーネットへ、構えを解いたアインハルトが祝福の言葉を贈る。
その言葉を受けてようやく華奢な身体から緊張が解け、やがて込みあがってきた嬉しさをめいっぱい表現する花のような笑顔が咲いた。
「ふふっ、やりました!」
外見相応らしい笑顔で握りこぶしを振り上げる少女につられるようにして、アインハルトも一緒に笑った。
大人びた人だと思っていたけれど、こんな無邪気な顔で笑うこともあるんだな……と。
意外性を知ってついこぼれた笑みだったが、その感想は口にせず胸にしまっておく。
「目当てのアイテムは入手できた?」
「……あ、そうでした。ボスのドロップアイテムですね。待ってください、確認してみます」
どうやら勝利の喜びでボスに挑んだ当初の目的を忘れていたらしく、ガーネットは思い出したようにアイテムウィンドウを操作し始める。
ボスの討伐証とドロップアイテムは、戦闘に参加したプレイヤーそれぞれに付与されるものだ。
討伐証はみな一様に討伐数1としてカウントされるだけだが、アイテムはボスの種類ごとに設定された確率に従ってランダムに配布されるので、誰にどの品が舞い込むかわからない。
アインハルトは自分が入手できたら渡すつもりでいたものの、違うアイテムが配布されてしまっていた。
指定されたアイテムはドロップ率の悪いものではないので、上手く入手できているといいのだれど。
補助をする傍ら見守っていたが、ガーネットは初めての敵相手によく戦っていた。
盾役がいたとはいえ、攻撃はほとんどガーネットが行い、実質一人でボスを倒したようなものだ。
なので、彼女には討伐証よりももっといいご褒美があっていい、とアインハルトは思っていた。
ウィンドウの一点で少女の視線が止まったのを見て、アインハルトの表情は明るくなった。
「……あった?」
「はい、入手成功です!」
成果をお披露目するように、ガーネットはアイテムを取り出してアインハルトへ差し出して見せた。
掌に乗っているのは両手いっぱいの大きな紫水晶。
紫水晶を含んだ岩石を主食とするアメジストライノセラスの体内で蓄積・精製されることによってできた純度の高い大水晶は、坑道内の他のどの紫水晶よりも神秘的な輝きを放つ至高の宝石だった。
とても綺麗ですね、と言って興奮気味に様々な角度から大水晶を眺めている少女は、きっと今自分が誰と一緒にいるかも忘れているのだろう。
予想外に可愛らしい挙動をするものだからじっと眺めていると、ふと顔を上げたガーネットと目が合った。
はっとした様子で見開かれた少女の瞳は、顔ごと急に明後日の方角を向く。
「どうかした?」
「こほん! ……いえ、何でもありません」
咳払いをして水晶をしまい込んだガーネットは、いつもの、どこか大人びた雰囲気の少女に戻っていた。
アインハルトさん、と名前を呼んで向き直る。
「本日は私の急な呼び出しにも関わらずご協力していただき、どうもありがとうございました。
このお礼はまたの機会に、何かの形で必ずいたします」
「そんな、お礼なんて気にしなくていいよ。誰かの手伝いなんてよくあることだし、そういうつもりで手伝ったんじゃないから」
「二度も助けていただいて、そういうわけにはいきません」
「俺がしたくてしたことだから、いいんだよ。キミの喜ぶ姿を見たら、なんか心が軽くなったし」
度重なるボス戦の疲れで内心へとへとだったが、アインハルトの顔は自然と笑顔だった。
相変わらずの礼儀正しさを発揮して食い下がるガーネットに対して、最終的には仕方なく「じゃあ、お礼楽しみにしてるよ」と答え、そのやりとりの可笑しさに噴き出してしまった。
手伝いばかりでうんざりしていた矢先に見返りもない要請を受けて、作業を片付けるように終わらせるはずだったはずが、気付けば不満もなく、ただ笑っていた。
今回アインハルトが新たに知り得た情報は、ガーネットという少女は意外と負けず嫌いで頑固なことと、
少し取っつきにくい行儀良さも、ふとした切欠で崩れる場合があるらしいこと。
加えて、何かをやり遂げた時の表情が心の底から嬉しそうで、見ている方まで嬉しくなるということだった。
不特定多数の人間が集い、時として煩わしい人付き合いがあるけれど、こういう発見や喜びがあるからこのゲームを続けていけるのだ。
今日はもうログアウトして休むと決め、またねと言ってガーネットと別れた後。
上田有人が自室のベッドに身を投げ出して考えたのは、もしもまた次があるならば、その時は彼女のどんな一面を垣間見れるだろうかという、ささやかな未来への期待だった。


<End.>


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7/25〆「笑顔」

最初に、この場を借りて、お題を提供してくれた相棒へ感謝と謝罪を。

締切ぶっちぎって申し訳ありませんでした(土下座)。
お題消化が延長戦にもつれ込む中、
締切日後に投下された二人の出会い話を(うかつにも)お題消化の前に読んでしまい、
その後に続く話をこのお題で書こう!と、それまで書いていた方を隅に置いて期日を過ぎた後から書き始めたものです。
書き出し好調だったので延長一週間でいけるかと思っていたんですが、
後半がどうもしっくりくる最後の像が結べず、、、最終的に計3週間と2日オーバーしてしまいました。
一カ月弱待たせるとか、ほんとうにもうしわけない……!!
こう、ぎゅっと小さくなってじゃがりこの空箱に引きこもりたいくらい反省してます。そのまま蓋をして土に埋めてくれて構わない。

じゃあお前、最初から書いていたものを仕上げた方が良かったんじゃないのか?というと、
そちらも後半行き詰って執筆停滞したので、なるだけ熱が冷めないうちにレスポンスするべくこちらを仕上げるのに全力を傾けました。



>この時実は密かな一目ぼれに近い気持ちからアルト君に声をかけたのだとしたらかなり良いという結論に至りました。

・・・・・・なにこの胸キュン展開。
密かな一目ぼれ、大いにアリだと思います! AE版先輩後輩組がいよいよ本格始動かーー!
ということで、相棒宅【春冬浪漫】からの続きとして、フレンド登録し合って別れた後の日のお話を書いてみました。

アインハルトは最初、ガーネットの崩れることなき礼儀正しい姿勢にとっつきにくさを感じて距離をはかりかねてます。
ガーネットのようなお嬢様タイプの子とはあまり接したことがないので、内心隔たりを感じていたりもしています。
あまり堅苦しい雰囲気にならないように同年代に対する口調と同じように話しかけてはみたものの、
相手は礼儀正しい口調のままだし、なんだか大人っぽい雰囲気も感じたりして、
これって果たしてこのままの態度でいっていいんだろうか……?と。
もしかして、相手の機嫌を損ねてないかな?と。
終盤にはそんなことはもうどうでも良くなってしまっているあたり鳥頭…じゃないですが、高校生男子単純★ですね。

情報少なくてよくわからないことうけ合いのアインハルトの心情や行動パターンを気持ち多めに描写してみたTUMORI。
途中から方向を見失って何が書きたいのかよくわからなくなったけれど、途中見直す時間を置いたので軌道修正できていると思いたい。



「笑顔」という単語を見ると、ニコッとした明るいものを真っ先に連想するので、
最初はガーネットの笑顔に好感を持つアインハルト……という構図に焦点を当てた話にしようと書き始めましたが、
そういえばアインハルトも心情に反して他人との摩擦を避けるためにニコニコしてる奴だったよな……と思い、
アインハルトの方にもいろいろ笑顔になってもらいました。

嫌々付き合ってるけど、相手にそう悟られない(相手の機嫌をさらに損ねない)ように作ってる笑顔、
気疲れを隠して付き合いを円滑に進めるための笑顔、
協力プレイが楽しくなってきて無意識に浮かべてしまう笑顔……。
明るい感じで〆たかったので、最後は自然と笑顔になる流れで。
たとえ普段からニコニコしてる奴でもやっぱり、一番の笑顔は心からの笑顔だと思うんですよ!
ガーネットとは一緒にいて、つい笑顔になってしまうような関係を築けていけたらいいなという思いを託しました。

この話のガーネットは多分、私が持っているTS版ガーネットの印象をまだ引きずっているような感じになってしまっているかと思います。
丁寧で礼儀正しいけど、会ったばかりの相手にはその姿勢を決して崩さない、庶民にはどこか取っつきにくい、そんなガーネットです。
本当はもっと、(ゲーム内だし)初対面に近い相手に対しても笑ったり、柔らかい態度を取っているのかもしれないんだけど、
作中ではそのやや硬派な“お嬢様の装い”が外れた時のギャップが欲しくて、
アインハルトの目にはそういう風に見えている的な流れにしてしまいました。
その他にもいろいろねつ造してキャラ設定から外れてしまっていたらごめんよ……空き箱に詰めて埋めてくれ……。


……最後に。
長文が読みにくいレイアウトの中、最後まで読んでくださりありがとうございました。
話の出来どうしようもないですが、読む環境くらいはどうにかしたいと思いつつ。
時間もないのでこのまま投下しますが、
もっと文章の読みやすい環境で提供できるといいな……。


――以下、ゲーム内情報。

▼【モーブ坑道】
モーブ=紫色、紫水晶がよく採れる鉱山にある坑道。
大蝙蝠、鉱石虫(固い甲羅を持つ大きな虫)などのモンスターが出現。
鉱石を主食とするアメジストライノセラスが住み着いてしまったため、それより奥の採掘ができなくなってしまっている。

難易度は中級者向け。
TSのレベル感覚でいうと60~80レベル↑対象くらいのイメージ。
インスタントダンジョンで、坑道内に入った後は他のプレイヤーとかち合うことはなく、
静かで薄暗い道をひたすら奥にむかって前進することになる。
最奥にある紫石の間では、ボスのアメジストライノセラスと戦闘可。


▼【アメジスト ライノセラス】
モーブ坑道のボス。
太い尾から背中にかけて大きな紫水晶を背負ったような姿の、巨大なサイに似たモンスター。
突進攻撃の後に繰り出される尾による一掃攻撃は範囲が広く、狭い坑道内では逃げ場がない。
ちなみに、一番痛いのは鉱石を噛み砕くほどの力を持つ顎による噛みつき攻撃。
有効範囲は狭いものの、もろに食らうとHPをごっそり持っていかれる。よって、正面を避けた近~中距離戦が無難。
分厚い皮膚による高い物理防御力を持つ。属性攻撃が通りやすいが、特に水と雷属性が弱点。
属性攻撃手段を持たない場合は耐え忍びながらの長期戦を覚悟しなければならない。

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HN:
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日々アホなことを考えつつネタ探しに奔走するズボラー(だらしのない人間)。
得意技は大言壮語と自給自足。
ないなら自分でつくればいいじゃない。

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